医療費が1割負担になる!「自立支援医療(精神通院医療)」を解説

医療費の負担は3割、というのは当たり前のものとして知られていますが、実は病気によっては3割かからない制度があります。これを上手に利用すれば、節約しながら病気の治療を行うことができます。

今回紹介するのは「自立支援医療(精神通院医療)」という制度です。名前のように精神を病んで通院する場合に安くなるというもので、年々増加するメンタルを病んでしまった人にとってはありがたい制度になります。使えるものは使って早く症状を回復させましょう。

精神科の医療費は高い!?

あまり知られていないかもしれませんが、日本の場合、歯科医を除いて、医師ならば自分の専門診療科目以外の処方もできます。つまり、眼科の人が風邪薬や抗生物質を処方することもできるんです。

しかし、出してくれてもせいぜい弱い薬(葛根湯とかPL顆粒とか)止まりです。これは専門外の処方をして、患者さんに何かあっても責任が取れないからです。

精神科で出される薬も同様です。睡眠薬だけでなく、抗うつ薬精神安定剤も一部のすごく特殊で強力なもの以外は他の診療科目でも出せるのです。

心療内科」「神経科」などと謳っているクリニックの中には、専門は内科だったり耳鼻科だったりするところもあります。そうしたところでも、メンタルが病んだ人向けの薬を出すことは可能です。

しかし、脳に直接作用する薬ですから迂闊な処方はできません。したがって、「心療内科」で処方されるものはすごく弱い睡眠薬精神安定剤(肩こりに効くくらいのもの)に限られています。

一般的に「精神科」と呼ばれて、メンタルの治療を専門にしている病院には「精神保健指定医」と呼ばれる医師の中でも特別な資格を持った人がいるはずです。各種書類(ここで述べる自立支援の診断書)や休職の診断書などもこの資格を持った人のものでないと受け付けてくれません。

なぜこのような資格があるのかについては省略しますが、精神科の中には症状が重い患者さんを「措置入院」させる必要がある時があります。よく言われる、檻のある閉鎖病棟に入れて、身体を拘束して・・というあれです。本人の意思に反して身体を拘束するのは人権にかかわるものですから、しっかりとした国家資格を持った人でないとできません。

その精神保健指定医の診察にかかる場合、診療費の内訳の欄に「診療報酬 精神科専門療法」という欄があると思います。これが「600点~330点」かかります。診療報酬は1点=10円ですから、6000円~3300円かかるということです。3割負担としても、2000円~1100円行くたびに通常の内科などに診察よりもかかります。

時間をかけて本当に診療してくれればいいのですが、日本の精神科医療は「5分診療」と揶揄されるように、薬を出してハイおしまいで、どんどん患者さんを回転させていきます。それだけ患者さんがいるからともいえますが、ほとんど「療法」をしていないのに内科などより多くの医療費を請求されると懐に痛いです。

しっかりとしたメンタルの治療を受ける(薬の処方を受ける)必要あり
精神保健指定医がいる病院に行かなければならない
→精神科専門療法が加算される
→毎回1100円~2000円余分にかかる

「毎週来てください」などと言われると、診察代だけでバカになりません。また、日本の精神科医療の場合多くの薬が出されます(これには意見がありますが略)。そのため薬代も大変高く、1回の診察+処方で10000円を超える場合も珍しくありません。治療の前に破産してしまいそうです。


自立支援医療の概要

メンタルの病気から回復して自立していくためには、かなりお金がかかることが分かりました。しかし、それで診察をためらってしまっては、治るものも治らなくなってしまいます。そこで、高額になりがちなメンタル系の医療費を減らす制度として、「自立支援医療(精神通院医療)」というものができました。簡単に言うと、3割負担が1割負担になります。これだけで3分の1の費用負担で済みます。

精神保健指定医がいる病院に行き、「治療が長引きそう」という所見があればこの制度を進められるはずです。

制度は通院してから数か月で大丈夫なはずです。障害者手帳障害年金とは別のカテゴリで、そこまで症状が悪くなくても使えます。メンタル系の疾患を治すためには年単位の通院が必要であり、薬を飲まなくなっても一定期間の通院が求められます。だから、この制度を利用した方がいいんです。使えるものは使いましょう。

申請(各自治体の保健や福祉の窓口)をすると、一定期間後「受給者証」が送られてきます。ただし、申請した日から使えますので、控えを病院や薬局に見せればOKです。

自立支援制度が受けられる病院・クリニックと薬局はそれぞれ1か所で、申請書に記入をして登録されます。特に薬局については、その時々で色々な調剤薬局を利用している人が多いと思いますが、メンタル系の薬を処方してもらう薬局は1つに絞ってください。他の薬局で薬が処方されないわけではないですが、その場合制度は適用されず3割負担になります。

自立支援制度は1年更新になります。1年ごとに書類を提出しないといけませんが、医師の診断書(保険が効かず自費、数千円)は隔年の提出でOKです。また、症状が重い方は障害手帳申請のための診断書と一緒に出せば、そちらの診断書で一緒に申請することができます(診断書作成料が1つで済みます)。

<制度の概要:厚労省HP

上限額を超えれば無料、人によっては完全無料も

1割負担になるだけでなく、前年の世帯収入に応じて「毎月の支払い上限額」が設定されています。つまり、「上限額5000円」の人が、ある月に、精神科の診察料+薬代が5000円を超えた場合は、超えた分は無料になります。

世帯収入に応じての上限は、月0円(実質負担なし)、月2500円まで、月5000円まで、月10000円まで、月20000円まで、上限なし(必ず1割負担してもらう)などの上限が設定されています。

さらに、あまり収入が多いと、制度の適用ができない場合があるようです。診療費が高額で払えない人を助ける制度ですから、払えるだけの十分な収入がある人は従来通り3割負担でお願いします、ということですね。

世帯収入については、申請時に住民税の課税証明(非課税証明)を出してもらいます。住民税の決定時期は毎年6月10日前後ですから、そのあたりに申請しようと思った人は、前年と前々年どちらのほうが課税額が少ないかで判断してください。

つまり、前々年のほうが課税額が少ないと思うならば、6月10日前に課税証明を取って早めに申請を出す、逆に前年のほうが少ない場合は、1回分診察を3割負担で受けてから前年の課税証明を6月10日以降に取って申請する、という方法もあります。詳しくは自治体の窓口で聞いてみるといいでしょう。

ついでに別の病気の薬をもらった場合は?

1割、あるいは人によっては無料になるのだから、一緒に風邪薬や湿布をもらいたいという人もいるかもしれません。冒頭に書いたように、どの診療科目の医師でもどの薬も処方可能です。

「ついでに」精神科医精神保健指定医)がいつもの精神薬に加えて、風邪薬や抗生物質、湿布などを処方することもできます。専門的な内服薬は嫌がるでしょうが、湿布やイソジンくらいなら処方してくれるはずです。

その場合、湿布やイソジンも1割になるのか?というとそうではありません。その薬の分はしっかり3割薬局で請求されます。ただし、医師の診察の方は一緒ですので、1割負担のままです(というか料金は変わらないはずです)。

1割負担になるのは

抗うつ薬
抗不安薬精神安定剤
睡眠薬

といった精神薬(メンタルの治療そのもののための薬)と、その副作用を抑えるための薬です。メンタルの薬は副作用が出やすいことで知られています。例えば、「アモキサン」という抗うつ薬を飲むとかなりの人が便秘になります。これまで便秘に悩んだことがない人も有無を言わさず便秘になります。したがって、一緒に下剤を飲まないといけないのですが、その下剤についてはメンタルの治療と関係するので1割負担になります。

しかし、胃薬は副作用に関係しないので、ついでに出してもらっても3割負担ということです。もっと言うと、そのついでに出してもらった薬を薬局で処方してもらう場合、もし毎月の負担が0円の人の場合、メンタルとは関係ない処方になるので、その分の調剤料や薬代は請求される=無料にならないということです。

医師の診察、処方箋料は無料の人は別の薬をついでに出してもらっても無料ですが、薬代はかかるということです。また、咳がひどくて血液検査をしたりレントゲンを撮ったりした場合は、もうメンタルとは関係ないので病院でも医療費の請求が3割であります(もっとも、レントゲンがある精神科は少ないでしょうが)。

・メンタルの診察→1割
・「ついで」に別の薬を出してもらう診察→1割
・メンタル系の薬→1割
・メンタル系の薬の副作用を抑える薬→1割
・関係ない薬(風邪薬、湿布・・・)→3割

と覚えておきましょう。簡単な薬ならばついでの診察、処方をお願いしてみるのも、本来の医療からは外れますが節約術の1つです(診察代が1割だから)。

保険に入れなくなる!?

自立支援制度を利用すると生命保険や入院保険など「民間保険」に入れなくなる?と思われるかもしれませんが、制度の利用と保険加入については関係ありません。

身もふたもない言い方をすると、精神保健指定医がいる精神科に継続して通っている時点でダメです・・・。それが嫌ならば、精神保健指定医ではない人がやっている「心療内科」や普通の診療科目の「かかりつけ医」に事情を話して薬をもらうしかないです。

しかし、その人たちは専門ではないので適切な処方ができないかもしれませんし、強い薬は処方されないはずです(怖いから)。そうこうしているうちに症状が悪化して、引返せないところまで来てしまう・・・ということもあるかもしれないです。

保険への加入と精神保健指定医への通院が「トレードオフ」の関係にあると思ってください。メンタルを病んだらこれ以上悪化しないように腹をくくって、精神保健指定医がいる病院へ行き、自立支援を活用しながら治すしかないと思います。

ちなみに通院歴があっても入れる保険もあります。ただし、「メンタル系の入院費などは出ない」とか、保険料がかなり割高のものになってしまいます。病む「因子」があると判断されるので、仕方がないのかもしれません。

回復し症状が安定するまで通院は不可欠

メンタル系の場合、他の通院のように

・ウィルスがなくなった
・腫瘍を完全に切除した
・血液の数字が正常に戻った
・骨がくっついた

という「完治」の概念がありません。元の状態に戻って数年すぎて「寛解」と呼ばれるところまで通院して持っていくのが最終目標です。体を切って中を見るわけにもいかず、レントゲンやCTスキャンで分かることもなく、血液検査でもわからないので「完治」という概念がないんです。

だからその「寛解」まで数年病院へ通う必要があり、その都度「精神科専門療法」1100円~2000円を払うのは大変なので、「自立支援医療(精神通院医療)」を活用しましょう、という話になります。節約というよりもかなり家計にかかわってくる話ですので、もしメンタルを病んでしまった場合はこの話を思い出してみてください。

まとめ

自立支援医療とは精神科での診察代+薬局での薬代が1割負担になる制度
・3割負担の場合「精神科専門療法」で診療報酬がかなり高くなる
精神保健指定医がいる病院=自立支援医療を使える病院
・そうでない内科などでも精神薬は出せるが、医師は嫌がるし専門的な治療ができない
・精神科での診察のついでに他の薬を処方してもらうことも可能(ただし簡単な薬)
・その場合診察代は1割負担だが、ついでの薬代は3割負担
自立支援医療は前年の収入に応じて毎月の支払上限があり、収入が低いと1割負担以下の実質無料になる
・世帯収入が多いとこの制度が利用できないケースがありその場合は通常の3割負担になる

関連

agora-web.jp